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熊本地方裁判所 昭和29年(行)15号 判決 1960年3月22日

原告 門前勝喜 外二三名

被告 熊本県知事

主文

原告等の請求は、いずれもこれを棄却する。

訴訟費用は原告等の負担とする。

事実

原告等訴訟代理人は、「被告が、昭和二十七年十月八日、自作農創設特別措置法第四十一条の二の規定に基きなした、別紙目録第一記載の者に対し、別紙目録第二記載の土地を無償で一時使用せしめる旨の認可処分が無効であることを確認する。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求原因として、

原告等は、別紙目録第二記載の通称大正開田地の旧耕作者であるが、政府は、昭和二十六年三月二日、熊本県農地委員会の未墾地買収計画に基き、右田地全部を買収し、同委員会は、同年四月、その売渡、配分計画を樹立したものであるが、被告は、右売渡までの暫定的措置として、自作農創設特別措置法(以下、自創法と略称する)第四十一条の二、第四十六条第三項の各規定に基き、本訴田地を一時無償で使用せしめる方針を樹て、農林省令第一〇七号開拓財産管理規則第十一条及び農林省農地局長発熊本農地事務局長宛二五地第一三五七号昭和二十五年六月二十二日付通達(以下、通達と略称する)に則り、一時使用を認可すべき適格者を選定するため、玉名郡鍋村々長に対し、入植者、増反者別に一時使用希望者の調査報告方を依頼し、同村長が同月右調査を実施した結果、同村長に対し、口頭でその希望を申出た者は、入植希望者二十五名、増反希望者九十二名合計百十七名であつたがその際、原告池端勝太郎は、その子池端正名の名義で入植の希望を申出たが、その他の原告等二十三名はすべて増反希望を申出たものである。しかして、鍋村農業委員会は、昭和二十七年六月二十三日、本来同村長が被告に対し報告すべき希望状況の調査結果につき、自ら更に進んで、希望者の一時使用適格を審査銓衡した結果、適格者として、入植者十四名、増反者四十八名を限定選出し、右適格者からそれぞれ適式の一時使用申込書を徴した上、通達所定の手続に従い、入植希望者については、申込書を玉名地方事務所長を経由して被告へ、増反希望者については、同所長へ、それぞれ送付進達し且つ推薦したが、その際、原告等を含むその他の希望者は、これを不適格と認定して推薦はもちろん進達もしなかつた。しかして、被告は、被推薦入植者十四名につき、県入植者銓衡部会の、被推薦増反者四十八名につき、昭和二十七年八月三十日、玉名地方入植増反者銓衡部会の各諮問を得て、同年十月八日、本訴田地につき、別紙目録第一記載の入植者十名、増反者四十名を自創法第四十一条の二に規定する一時使用をなすべき者として認可する旨の本件処分をなした。

一、しかしながら、本件認可処分は、契約違反の無効な処分である。すなわち、先に本訴田地が買収されるに当り、被告は、原告等に対し、本訴田地を売渡すときは、原告等に対し優先的に売渡すよう配慮する旨を約したものであるところ、自創法第四十一条所定の売渡処分は必ずしも同法第四十一条の二の一時使用の認可処分を前提とするものではないにせよ、原則として両処分の相手方は一致するのが法の建前である関係上、被告が本件認可処分をなすに当つては、右契約の趣旨に副つて、原告等に対し優先的に使用させるべきが当然であるに拘らず、単に、原告等が鍋村農業委員会から進達ないし推薦されないという形式的理由から、原告等を本件認可処分の対象として参酌せず、一方的に右契約を破棄するに等しい処分をなした被告の本件認可処分は無効であるといわなければならない。

二、仮に然らずとするも、本件認可処分は、同処分に至る過程において、明白且つ重大な瑕疵が存するため到底無効たるを免れないものである。以下この点を詳述する。

(一)  本件処分は、鍋村農業委員会が希望者を審査銓衡した結果に基くものであるが、同委員会は、もともと本件処分までの一切の手続に関し、なんらの権限を有しない。すなわち、被告が一時使用者を認可決定するまでの手続については、前記通達によれば、一時使用希望者は、居住地市区町村長に対し、入植又は増反の志願書を提出して、その申込をなし、当該市区町村長は、入植希望者については、地方事務所長を経由して都道府県知事に、増反希望者については、地方事務所長に、それぞれ送付、進達し、都道府県知事は、入植希望者につき県入植者銓衡部会の、増反希望者につき地方入植増反者銓衡部会の各諮問を得た上、通達所定の銓衡基準要綱に合致する適格者につき一時使用の認可決定をすることゝなつており、その間、農業委員会の介入する余地は全くないのであるから、鍋村農業委員会の審査銓衡はなんら権限のないものゝ行為であつて無効であり、かゝる無効な行為を基礎とする被告の本件処分が無効であることは言うまでもない。

(二)  仮に鍋村農業委員会が、本件処分に至る手続に関し、なんらかの権限を有するとしても、その権限は、鍋村々長の有する権限を出るものではないというべきであるが、本来、同村長は、被告から希望状況の調査報告に限り依嘱されていたもので、希望者を審査銓衡して適格者を選出する権限は全く与えられていなかつたのであるから、単なる希望状況の調査報告の程度を越えた同委員会の適格者銓衡行為は、権限なくしてなした無効な行為であり、従つて、これを前提とする被告の本件認可処分も亦無効たるを免れない。

(三)  仮に、鍋村農業委員会が、一定の範囲で、希望者の審査銓衡による適格者の選出権限を有するとしても、同委員会の適格者銓衡行為は、それ自体、次のような理由により無効である。すなわち、

(イ)  原告等はいずれも鍋村内磯鍋区(通称磯鍋部落又は塩屋部落)の居住者であるが、本訴大正開田地とは特殊な関係にあるものであつて、当然他の希望者に優先して、同委員会の進達推薦を受くべき立場にある者である、以下この点を詳述する。本訴田地は有明海に面する干拓地であつて、大正元年干拓地の認可があつたものであるが、原告等又はその先代ないし地主は、大正元年以降、営々として本訴田地の完全農地化に努力した結果、昭和八、九年に至り、漸くそれに成功し、爾来、原告等は小作人或は自作農として、これを耕作してきたものであるところ、昭和十九年頃、今次大戦の進展に伴い、戦時国策の一環として、本訴田地を塩田化する計画が樹てられ、当時の地主等は、右計画の実現に協力すべく、同年三月、熊本県水産課の斡旋により、訴外熊本県味噌醤油組合に本訴田地を貸与し、同組合においてこれを塩田化したが、右貸与と同時に、小作人である原告等も、右塩田化に協力すべく、地主との間において従前の賃貸借を合意解除したが、その際、訴外組合、地主及び原告等は、三者協議の結果、将来塩田が廃止された暁には、地主と組合間の賃貸借は当然解除され、訴外組合は、直ちに本訴田地を農地に復元して地主に返還する、地主は訴外組合から返還を受けたときは、原告等を旧状どおり小作人として耕作に復帰させる旨を約した。しかるに、終戦後の昭和二十四年頃に至り、訴外組合の塩田は廃止され、地主と訴外組合との間の貸借は当然解除されたに拘らず、同組合は、前記約旨に反し、原状回復義務を履行しないで、本訴田地を塩田のまゝ放置するうち、前記のとおり、未墾地として買収されることゝなつたものであるが、被告は、前記塩田化に際し、自ら斡旋役を努めた経緯に鑑み、且つ、買収当時、既に地主の手で半農地化されていた関係上、実質的には農地買収に準じ旧小作人たる原告等に売渡されるのが条理上至当であるとの見地から、原告等に対し、前記のとおり、売渡の際は原告等に優先的に売渡すべく配慮する旨を約したものである。以上のような、原告等の特殊事情を考慮すれば、鍋村農業委員会は、前記銓衡基準要綱所定の適格条件を備え且つ、被推薦者同様一時使用の希望を申出ている原告等については、これを他の希望者と区別して優先的に進達推薦するのが公平であり且つ条理上当然であるに拘らず、右の条理を無視して原告等を不適格者と認定して推薦はもちろん進達もせず、前記のとおりの銓衡、進達及び推薦をなした同委員会の行為は全体として結局条理に反する無効な行為といわなければならない。

(ロ)  同委員会は希望者のうちから適格者として入植希望者十四名、増反希望者四十八名に限り選出し推薦したものであるが、右選出の方法は、予め、被告の内示した認可予定者数である入植者十名、増反者四十名を一応鍋村六部落に割当て、各部落の自主的調整によりできるだけ割当数に近い員数まで、希望者を減少させて適格者を推薦させた上、最終的に農業委員会で進達又は推薦すべき者を決定することゝし、昭和二十七年六月十九日、入植者につき磯鍋部落三名、その他の五部落各一名、その他二名計十名、増反者につき上鍋、明神尾部落各七名、立山、本村部落各六名、下沖洲部落五名、磯鍋部落九名計四十名と割当て、現実の部落内の調整は、各部落選出の農業委員と区長がこれに当ることを決議した。しかしながら、村内希望者総数百十七名中、原告等居住の磯鍋部落内の希望者数は、他部落と比較にならぬ七十余名の多きに及んでおり、また磯鍋部落は、他部落と比較して、本訴田地に最も近く入植増反の地理的条件にも恵まれている上、原告等と本訴田地との前記のような特殊関係を考慮するとき、磯鍋部落に対する割当数は、他部落との均衡上著しく少なく不公平であつて、このような正当な根拠のない割当は、それ自体有効なものといえないことは明らかである。

(ハ)  農業委員による各部落内の適格者選出行為も亦、農業委員の差別的且つ情実的人選に基く不公正な行為で、全体として無効たるを免れないものである。右の事実は、各農業委員の選出した適格者中に相当多数の農業委員及びその縁故者が含まれていることに徴するも明白であるが、現に原告等居住の磯鍋部落にあつては、同部落選出農業委員二名は、希望者不知の間に、自らを適格者に加えた上、七十余名の希望者中から恣意的に適格者として約十名を選出したものである。

(ニ)  農業委員会は、各部落農業委員の報告推薦に基き、最終的に、入植者十四名、増反者四十八名を進達且つ推薦することを決議したが、本件のような性質の決議にあつては、利害関係を有するものは議決権を行使できないと解するを民主的な議決方法というべきであるのに、被推薦者たる農業委員が自ら議決に参与しており、到底、公正にして有効な決議があつたということはできない。

以上の次第で、被告のなした本件一時使用の認可処分は、信義誠実の原則に反し、且つ、その過程において明白且つ重大な瑕疵を含む行政処分であつて、無効であることは明らかであるから、原告等はその確認を求めるため本訴に及んだと述べ、

被告の本案前の抗弁に対し、(一)自創法第四十一条の二所定の未墾地の一時使用につき被告のなすべき認可処分が公法上の契約であつて、行政訴訟の対象とならないとの被告の主張については、本件認可処分は、被認可者の出願をその要件とするものではあるが、一時使用の内容は、被告が一方的に決定し、その決定に被認可者は全く関与する権限がないとされているのであつて、この点、対等者間の合意で契約内容を自由に決定できる公法上の契約と異ること明らかであるから、当然行政訴訟の対象たりうべき行政処分といわなければならない。仮に本件認可処分が公法上の契約の範疇に入るとしても、行政事件訴訟特例法第一条にいう「公法上の権利関係に関するる」ものであることは明らかであるから、行政訴訟の対象たるべき処分であることに変りはない。(二)確認の利益がないとの被告の主張については、本件認可処分の無効が確定すれば、農業に精進する見込がある者で、且つ一時使用の申込をした者である以上、再び一時使用の相手方となる可能性を回復するに至るものであるから、右要件を備える者が、本件処分の無効確認を求める利益を有することは明らかであり、原告等はいずれも、右要件を具有するものである、と述べた。(立証省略)

被告訴訟代理人は、本案前の抗弁として、「原告等の訴は、いずれもこれを却下する」との判決を求め、その理由として、(一)本件訴の目的となつている自創法第四十一条の二の規定による被告の一時使用認可処分は公法上の契約であるから行政訴訟の対象たりえないものである。(二)本件認可処分は、被告の自由裁量事項であるから、仮に原告等以外の第三者に対する本件認可処分の無効を確定したところで、原告等が一時使用の認可を受けるとは限らないばかりか、原告等の権利は法律上直接にはなんらの影響も受けないから、本訴はいずれも確認の利益がない。以上のとおり、本訴はいずれも訴訟要件を欠くから却下されるべきである、と述べ、

本案につき、主文同旨の判決を求め、答弁として、

原告等主張の事実のうち、冒頭記載の事実中、原告等のうちの一部が本訴田地の旧耕作者であること、昭和二十六年三月二日、本訴田地が未墾地として買収された後、売渡計画が樹立され、被告は売渡までの暫定的措置として、原告主張の法令通達に則り、本訴田地を一時無償で使用させることゝし、その使用適格者を決定するにつき、鍋村々長に対し、入植者、増反者別に、一時使用の希望状況の調査を依嘱したこと、原告門前勝喜、同平田勝、同田添喜代次、同池端勝太郎の四名を除きその余の原告が、同村長に対し、口頭で増反希望の申込をしたこと、被告が通達所定の志願書を提出した入植者十三名につき県入植者銓衡部会の、増反者四十八名につき玉名地方入植増反者銓衡部会の各諮問を得て、昭和二十七年十月八日、別紙目録第一記載の増反者四十名に対し、自創法規則第三十一条の二所定の通知書を交付して、これを本訴田地の一時使用者として認可決定したこと、原告中友松太郎、同島崎角蔵、同隈部明、同吉田竹次の四名以外の原告が被告或は玉名地方事務所長に進達されず、従つて、各銓衡部会の諮問の対象となつていないことは、認める。右四名の原告は、いずれも増反者として村長から玉名地方事務所長に進達されたが、玉名地方入植増反者銓衡部会の銓衡の結果不適格とされたものであり、また原告池端勝太郎は、自ら一時使用の希望申込を撤回し、その実子訴外池端正名が入植者として希望を申出たところ、同人は村長から被告に進達されたが、県入植者銓衡部会で不適格とされたものである。なお、別紙目録第一記載の入植者十名に対し、被告が一時使用を認可した事実はない。第一項は否認する、被告が原告主張のような契約を締結した事実はない。第二項(一)中、原告主張の通達による手続がその主張のとおりであることは認めるが、適格者の銓衡、進達及び推薦は、通達所定の手続に則り、鍋村々長がこれをなしたもので、通達違反の事実はない。第二項(二)中、村長が被告から希望者を審査銓衡して適格者を選出する権限を与えられてないとの点は否認する。第二項(三)の(イ)中、本訴田地が有明海に面した干拓地であつて、大正元年干拓地の認可があつたこと、昭和八、九年頃完全農地化したこと、原告等主張の事由経緯により本訴田地が塩田化されたこと、終戦後、塩田が廃止されたこと(但し昭和二十二年末である)、その後農地に復元されることなく塩田のまゝ放置されていたことは認める、第二項(三)の(ハ)中、農業委員の選出した適格者中に一部農業委員、区長、村会議員、農協理事及びその縁故者が存することは認めるか、これとても、農業委員の差別農的ないし情実的人選等特別な事由によるものではない、と答え、なお、本件認可処分にはなんらこれを無効とすべき理由は存しない。すなわち、被告は、本訴田地の一時使用適格者を決定するに当り、先ず鍋村々長及び同村農業委員会長(当時同一人の兼任)に対し、希望状況の調査を依頼すると同時に、同村長において、希望者を審査銓衡した結果、一応適格者と認められる者に限り、通達所定の手続に従つて入植者は被告へ、増反者は玉名地方事務所長へ、それぞれ進達又は推薦することを依嘱し、同村長は、右依嘱に応えて、希望者を審査銓衡した結果、入植希望者十三名、増反希望者四十八名を適格者と認めて、その進達及び推薦をなし、被告は、右進達された適格者のなかゝら、前記通達に則つて、一時使用者を認可決定したものであつて、その間手続上違法な点は存しない。けだし、同村長は、被告からの依嘱に基き、同村長において適格者と認める者に限り、これを進達又は推薦すれば足り、必ずしも希望者全員の進達をなす要はないのであつて、一時使用の申込をした原告等のうち被告に進達された前記原告中友松太郎外三名の原告以外の原告等は、いずれも村長から不適格と認定されたゝめ、その進達を受けなかつたものである。たゞ、同村長は、適格者を選出するに当り、村内各部落の農業委員に対し、個々の希望者の調査と適格者の審査選出を依嘱し、農業委員の選出したところを参考にして銓衡した結果、前記の進達、推薦をしたものであるが、右の依嘱は、具体的に妥当な適格者の選出を期するため当然の措置であつて、これを違法視する根拠は全くないのである。また、仮に原告等が一時使用の適格者であるとしても、本件認可を受けるためには、原告主張の規則、通達により志願書又は一時使用申込書の提出が形式的要件とされているから、これを提出していない前記原告中友松太郎外三名の原告以外の原告等二十名は、手続上、銓衡部会における銓衡の対象とならなかつたのは当然であり、従つて、本件認可処分を受けるに由なきものである。右志願書等の提出については、なるほど、部落によつては、農業委員会において不適格と認定した希望者に対し志願書等の提出方法を指導しなかつたゝめ、これを提出するに至らなかつた希望者の存する事実はあるが、これとても特に志願書等の提出を妨害したり、故意にその受理を拒んだことなく、その点全く希望者の自由意思に委ねられていたもので、原告等が志願書等を提出する機会は充分与えられていたのに、これを怠つたものであるから、通達どおり、志願書を提出した希望者についてのみ、その一時使用適格を銓衡して適格者を決定した本件処分は、その手続においてなんらの瑕疵も存しないこと明らかである。

以上のとおり、被告のなした本件認可処分は、その過程において、なんら違法な点はなく、前記法令通達に従い公平に処理されたもので有効な処分であり、原告等主張の各無効原因はいずれもその理由がないから、本訴請求は速やかに棄却されるべきである、と述べた。(立証省略)

理由

先ず、本案前の訴訟要件について判断する。

被告は、(一)本件一時使用の認可処分は公法上の契約であるから、行政訴訟の対象たりえないものであり、また(二)本件認可処分は、もともと、被告の自由裁量に属するもので、仮令その無効を確定したところで、これによつて、原告等が直接にはなんらの権利を取得するものではないから確認の利益がない、と主張するので、按ずるにに、(一)については、自創法第四十一条の二の一時使用の認可行為が、仮令公法上の契約の範疇に属するとしても、公法上の契約が行政事件訴訟特例法第一条にいう「その他公法上の権利関係」に該当するものとして、行政訴訟の対象となりうべきことは明らかであるから、右認可行為が公法上の契約の概念に含まれるかどうかを問わず、行政訴訟の対象となりうることに変りはない。従つて、この点の被告の主張は採用の限りでない。(二)については、なるほど本件認可処分の無効を確定したところで、直接には、被認可者以外の者の権利になんらの変動のないことは、被告主張のとおりであるけれども、同処分が無効ということになれば、農業に精進する者であつてて、且つ、被告から認可の対象となり得ると一応認められる可能性のある者は、仮令本件認可処分につき申込をなしていない者であつても、被告が新たになすべき認可手続において適式の申込をすることにより、その相手方となる機会を持ちうる者であつて、本件口頭弁論の全趣旨に徴すれば、原告等はいずれも農業に精進する者であつて、且つ、認可の対象となり得る見込があると認められる可能性を有する者であることが、一応窺えるので、一時使用の相手方となる機会が全くないとはいえず、従つて、本件認可処分の無効を確認する法律上の利益がないとはいえない。よつて、被告のこの点に関する主張も失当である。

以上のとおり、被告の本案前の主張は、いずれも理由がないので、次に本案について判断する。

昭和二十六年三月二日、本訴田地が未墾地として買収された直後、その売渡計画が樹立されたが、被告は右売渡までの暫定的措置として、原告主張の法令通達に則り、本訴田地を一時無償で使用させる計画を樹てたことは当事者間に争がない。

ところで、成立に争のない乙第一号証の一、二、第二号証、第三号証の三、四、証人二宮初雄、同松浦松喜、同田中豊記(第一、二回)、同岩野円、同林政蔵、同高田万吉、同日永治雄、同高浜修蔵、同前田清記、同松下重男、同福永吾一、同原本徳次の各証言及び口頭弁論の全趣旨を綜合すれば、被告は右一時使用の計画実現のために、先ず、鍋村々長に対し、希望状況の予備調査を依嘱し、同村長は、本訴田地の買収直後である昭和二十六年四月、全村に亘つて、本訴田地に対する入植、増反別に一時使用の希望の有無及び希望者については、本訴田地までの距離、耕作反別並に稼動能力等の調査を実施し、その際口頭で一時使用の希望を申出た者は、増反者が原告門前勝喜、同平田勝、同島崎義則、同田添喜代次、同池端勝太郎を除くその他の原告十九名を含む九十八名名、入植者が原告池端勝太郎の実子池端正名を含む二十五名計百二十三名であつたが、希望者数の約半数に当る六十ないし七十名は、原告等所属の磯鍋部落居住者であつたこと、その後本件認可処分に関する一切の事務は、同村長から同村農業委員会に委譲されたものであるところ、同委員会長は、同年十二月二十日、被告に対し右予備調査の結果を報告したこと、昭和二十七年六月五日、被告は、同村長及び同農業委員会長(但し、当時は同一人の兼任であつた)に対し、一時使用の認可予定者数として、入植者十名、増反者四十名の枠と前示通達所定の銓衡基準要綱を内示した上、更めて、希望状況の調査と適格者の進達又は推薦を依嘱したが、右依嘱の内容は、同村長及び農業委員会長において銓衡基準に合致すると認められる適格者全員の進達又は推薦であつて、一応適格者と認められる者を更に一定数まで銓衡限定する裁量を付与する趣旨ではなかつたこと、しかしながら、調査に当る同農業委員会は、同月十九日、第一回の委員会を開催したが、右依嘱の趣旨を誤解して、適格の有無の判定のみならず、適格者を一定数まで銓衡限定した上、これを進達又は推薦する権限も当然同委員会に属するとの前提の下に、適格条件の認定を厳格にして進達すべき適格者数をできるだけ認可予定者数に一致させることが望ましいとの見解をとり、その方法を協議した結果、前記予備調査の際の希望者数が認可予定者数を遥かに上廻る関係上、予め認可予定者数を各部落に割当て、適格者の選出を先ず村内六部落の各自主的調整に委ねることゝし、各部落内の具体的調整の手続は、各部落内の農業委員と村駐在員がこれに当り、農業委員と駐在員は、希望者と協議し且つ前記銓衡基準要綱に照して銓衡し、各割当数を多少上廻る数だけ、適格者を選出して、これを同委員会に推薦し、同委員会は被推薦者のなかゝら、最終的に、認可予定者数だけの適格者を銓衡決定して、これを進達又は推薦すべきことを決め、即日、磯鍋部落に対しては他部落より入植者は約三名多い約四名、増反者は約四名多い九ないし十名を割当てたこと、磯鍋部落に対する割当数が他部落より多かつた理由は、同部落内の希望者数が他部落と比較して多く、且つ後記のとおり、同部落居住者の多数が、かつて本訴田地と特殊の利害関係を有した経緯その他同部落と本訴田地の地理的関係等が考慮された結果であること、しかして、磯鍋部落以外の部落では、割当数に比較して希望者数が多くなかつた関係もあり且つ農業委員等の調整宜しきを得て、一応割当数ないしはそれに近い員数まで希望者数を調整し或は適格者を選出することができたが、独り原告等所属の磯鍋部落にあつては、割当数と比較して希望者数が極端に多いばかりか、適格者の選出に当るべき農業委員三名及び村駐在員二名計五名のうち農業委員一名を除く四名までが自ら希望者である関係上到底選出の公正を期しがたい状態にあつたので、部落内での自主的調整を試みることなく、そのまゝ適格者の選出を農業委員会での最終的決定の段階に持ち込んだこと、同月二十三日、全農業委員十五名が列席して第二回の委員会が開催され、その席上、磯鍋部落関係では、同部落の農業委員三名の意見をきゝ、且つ、希望者全員を一人一人前示要綱の銓衡基準に照して検討した結果、割当数を上廻る入植者五名、増反者十四名を同部落から選出される適格者と決定したが、その際、同部落選出の農業委員二名が選出される一方、原告等は、原告隈部明、同中友松太郎、同島崎角蔵、同吉田竹次を除き、全部除外されたこと、磯鍋部落以外の部落から選出された適格者中にも農業委員三名が含まれていたこと、しかして、同委員会は、全部落から適格者として選出された入植者十四名、増反者四十七名につき、更に審議銓衡を尽した結果、別紙目録第一記載の入植者十名、増反者四十名(認可予定者数)を進達且つ推薦すべき適格者と決定し、その余の入植者四名、増反者七名については、単にその一時使用申込書又は志願書を回付進達することに止めることを決議したが、その際、磯鍋部落から選出された原告隈部明外三名の原告も推薦すべき適格者から除外されたこと、右決議及び磯鍋部落からの選出者の決定は、いずれも委員会の全員一致でなされたものであるが、その際選出、進達ないし推薦さるべき農業委員自らこれに参与しており、利害関係を有する委員の議決権の行使を制限する等特別な議決方法はとられなかつたこと、その後、進達ないし推薦すべき員数に多少の変動があり、同年七月十日、鍋村農業委員会長は、被告に対し、希望状況調査の結果として、入植者十三名、増反者五十名(但し原告隈部明を除く)を報告する一方、進達ないし推薦すべき入植者十三名、増反者四十八名から一時使用申込書又は志願書を徴した上、通達所定の手続に則り、同月十五日、入植者については玉名地方事務所長を経由して被告へ、増反者については同所長へ、それぞれ申込書及び志願書を送付進達すると同時に、前記決議に従い、別紙目録第一記載の入植者、増反者を適格者として推薦したこと、しかして、被告の諮問機関である玉名地方入植増反者銓衡部会は、農業委員会から進達された四十八名以外に適格者はないとの前提の下に、昭和二十七年八月三十日増反申込書の銓衡を実施し、鍋村農業委員会長の意見に基いて同委員会が推薦した四十名をそのまゝ増反適格者と、その余を不適格者と判定し、その旨被告に答申し、一方、県入植者銓衡部会は同年九月十一日入植申込者十三名の銓衡を実施してその結果を被告に答申したこと、及び被告が、各銓衡部会の答申に基き、同年十月八日、別紙目録第一記載の入植者十名、増反者四十名を一時使用の適格者として認可する旨の本件処分をなしたことが認められる。

そこで原告等は、以上の経過によりなされた本件認可処分が無効であると主張するので、以下順次検討する。

一、先ず、原告等は、本訴田地の買収に際し、被告は原告等に対し、売渡に当つては、旧耕作者である原告等に優先的に売渡すことを約したに拘らず、右契約に違反した本件認可処分は無効であると主張するが、右主張のごとき契約の成立を認めるべき証拠なく、却つて、証人松浦松喜の証言によれば、買収に際し、県当局は、地元民に対し、単に、本訴田地を売渡すときは、村農業委員会及び旧地主の意見を参考にして公平に配分売渡す旨を約したにすぎず、特に旧耕作者に対して優先的に売渡すことを約した事実のないことが認められるので、原告等の契約違反の主張は、失当である。

二、次に、原告等は、(一)鍋村農業委員会は、本件認可処分に至る一切の手続につきなんらの権限もないのに、希望者の調査銓衡等を行つており、同委員会の関与自体本件処分の手続上重大な瑕疵があるのみならず(二)仮になんらかの権限があるとしても、希望状況の調査報告の権限だけでその他の権限はないのであるから、適格者の銓衡を行つた同委員会の行為は無権限の行為であつて無効であると主張するのに対し、被告は、適格者の銓衡行為は、被告からの依嘱に基き村長がその権限としてなしたもので手続上なんら違法な点はないと抗争するので按ずるに、(一)については、なるほど原告主張の通達によれば、本件認可までの手続は、都道府県知事、地方事務所長及び銓衡部会を除きすべて市区町村長が取扱うとされているにも拘らず、本件認可までの手続が農業委員会の手で処理されたことは前認定のとおりであるけれども、元来通達のごときは、法規としての性質を有せず、単に行政組織上、上級行政庁の下級行政庁に対する拘束力を有するにすぎないのであつて、通達違反の場合にも、下級庁の上級庁に対する職務違反を構成することはあつても、その故をもつて、当該処分自体が違法と目されるいわれは全くないのであるから、鍋村々長が同委員会に希望者の調査報告事務等を依嘱し、更に被告自ら直接同委員会に右の事務及び適格者の進達又は推薦を依嘱した行為はもちろん、右依嘱に応じた同委員会の行為は、そのこと自体により無効とされる性質のものではない。従つて、同委員会の関与行為が本件認可処分の手続上重大な瑕疵に当るとする原告等の主張は理由がない。(二)については、同委員会は被告から希望状況の調査報告のみならず、銓衡基準要綱に合致すると認められる適格者の進達又は推薦を依嘱されていたものであるが、たゞ、右依嘱の趣旨は、同委員会が一応適格者と認める限り、その全員の進達又は推薦をなすべく、そのなかゝら更に一定数を銓衡限定する権限を付与したものではないに拘らず、同委員会は、適格者を決定するに当り、右依嘱の趣旨を誤解して、右の権限まで同委員会に属するとの前提の下に、予め進達すべき一定数(認可予定者数と一致する)を決定した上、その数ないしそれに近い数だけの適格者を選出したことは前認定のとおりである。ところで、同委員会が適格者を銓衡決定するにつき、抽象的な適格基準を具体的に解釈適用する場合、その基準をどのていど厳格に解釈適用するかは、原則として依嘱を受けた同委員会の合理的裁量に委ねられていると解せられるから、同委員会は、適格基準の解釈を厳格にして認定すべき適格者数を適宜増減することができ、そうとすれば、その範囲で、実際上、適格者を一定数に限定できる結果となるのは当然であるが、その裁量行為も自ら限界があるというべきであつて、合理的裁量の限界を越えるときは、被告の依嘱した範囲を越えた越権行為というを妨げないこと明らかである。しかして、証人二宮初雄、同田中豊記(第一回)、同岩野円、同高田万吉、同林政蔵、同日永治雄の各証言及び弁論の全趣旨を綜合すると、仮に同委員会が、被告からの依嘱の趣旨を誤解せずに、始めから進達数に制限なく、適格者を選出進達したならば、当然適格者として進達を受けたであろう相当多数の希望者が、前示のような選出方法のため、進達を受けえなかつたことが窺える一方、百二十三人の希望者中から適格者として認可予定者数合計五十名だけを推薦した事実に徴するとき、同委員会のなした適格者銓衡行為は、適格基準の解釈適用が不当に厳格に過ぎ、その合理的裁量の範囲を逸脱した越権行為というべきことが明らかである。しかしながら、行政法上当該行政行為につき一般的権限を有するが、裁量権の範囲を越えたいわゆる越権行為のごときは、当然無効とはならず、単に取消原因となるに止まると解するを相当とするが、これを同委員会の適格者銓衡行為につきみるに、同委員会は被告からの依嘱に基いて適格者の銓衡につき一般的権限を有したものであるから、適格条件の解釈適用が合理的裁量の範囲を越えた瑕疵も所銓取消原因となるに止まり、銓衡行為全体を無効たらしめるものではない。よつて、この点に関する原告等の主張も結局失当である。

三、次に、原告等は、同委員会のなした一切の行為がその権限の範囲内の事項であるとしても、次の理由により同委員会の行為は、全体として所銓無効たるを免れないと主張するので、以下順次判断する。

(イ)  原告等は、本訴田地と原告等の特殊な関係を考慮すれば、同委員会は原告等を他の希望者に優先して推薦するのが条理上当然であるに拘らずこれを無視したと主張するので、按ずるに、証人松浦松喜の証言によれば、原告等二十四名は、或は本訴田地が干拓地の認可を受けた大正元年から、或はその後から、小作人又は自作農(原告中池端勝太郎独り)として、本訴田地の耕作に従事していたことが認められ、今次戦争の進展に伴い、戦時国策の一環として、原告等主張の経緯により訴外熊本県味噌醤油組合の手で本訴田地が塩田化されるに至つたこと、終戦後、訴外組合の塩田は廃止されたが、未だ農地に復元されることなく、塩田のまゝ放置された状態にあるうち未墾地として買収されたことは当事者間に争がなく、同証言及び証人西島博の証言によれば、塩田化に際し、訴外組合は、地主に対し、塩田廃止の暁は、農地に復元して返還することを約し、地主は原告等に対し、塩田廃止後は再び耕作に復帰させることを確約したので、原告等も止むなく耕作を中止するに至つたことが認められる。そうとすれば、原告等が本訴田地に深く執着し、耕作に復帰したいと願う心情は誠に無理からぬところではあるが、さればといつて、条理上、同委員会が適格者を認定して進達推薦するに当り、右認定の経緯を参酌して原告等を優先的に適格者として推薦しなければならない道理はなく、いわんや右の経緯を参酌しなかつたからといつて、同委員会の銓衡、進達及び推薦の一連の行為の効力に毫も影響を及ぼすものではない。従つて、原告等の主張は採用できない。

(ロ)  原告等は、また同委員会が鍋村六部落に対し、進達すべき予定数を割当てるにつき、原告等所属の磯鍋部落に対しては、希望者数と割当数の比率が、他部落と比較して著しく不利な割当をしたと主張する。なるほど、村内全希望者数百二十三名中その約半数の六十ないし七十名が磯鍋部落内居住者であるのに対し、同部落には、他部落より入植者につき約三名、増反者につき約四名多く割当てたにすぎないことは、本来、希望者数に応じて割当数を按分するのが公平な措置というべきであるに拘らず、右の措置をとらなかつた点においていさゝか公平を欠く割当であつたことは否めないが、割当総数自体必ずしも多くないのに部落数は六部落もあること及び磯鍋部落に対し、他部落より多少なりとも数多く割当てた理由は、同部落内の希望者数その他の特殊事情が勘案されたゝめであることは前認定のとおりであるところからすれば、右の瑕疵は必ずしも割当自体を無効ならしめるほど重大な瑕疵とはいえないし、いわんや、割当行為が単に便宜的な選出方法にすぎず、同委員会の適格者銓衡行為の要素をなすものでないことに徴すれば、右の瑕疵が割当に続く前認定のごとき同委員会の一連の行為を全体として無効ならしめるものでないこと当然である。よつてこの点に関する原告等の主張も、結局当らない。

(ハ)  次に、原告等は、農業委員のした適格者の選出が差別的、ないし情実的で無効であると主張し、右選出に係る適格者中に一部農業委員、区長、村会議員、農協理事及びその縁故者が存することは当事者間に争がないが、だからといつて、右の事実から、直ちに、農業委員等の選出された事例が、すべて、差別的、情実的な選出に係るものであるとは即断できないが、右争のない事実に証人二宮初雄同高田万吉同林政蔵の証言を併せ考えると、個々の事例につき、農業委員の差別的、ないし情実的配慮に基く選出のあつたことは推断するに難くないのであるが、同時に、証人田中豊記(第二回)、同磯田留一、同吉田義記、同中村末彦、同津口析吉、同美崎正義、同福永吾一、同松下重男、同前田清記、同原本徳次、同高浜修蔵の各証言と本件口頭弁論の全趣旨を綜合すれば、農業委員が選出した適格者(磯鍋部落関係では、前認定のとおり、昭和二十六年六月二十三日の農業委員会で直接決定された適格者)中には、或は、農業委員、区長、村会議員等と全く縁故関係のない者もあり、或は縁故があるのに申込をして選出されなかつた者もあるのであつて、農業委員等が適格者を選出した全部の事例のうち、希望者の自由意思と農業委員等の公平な判定に基き選出された事例も相当多く、これと比較すれば、前示差別的配慮によつて選出された事例は、適格者の選出行為全体としては、寧ろ例外的な事例にすぎないことが認められ、その差別的ないし情実的選出の事実とても、適格者選出行為全体を無効ならしめるほど重大な瑕疵とも認められない。たゞ、農業委員が適格者を選出するに当つては、情実的人選のごときは、原則として厳に慎むべきが当然であり、本件の場合のように、希望者を遥かに上廻る場合の選出にあつては殊に然りというべきであるに拘らず、敢てこれを無視した事例の存することは、それが仮令例外的な少数の事例とはいえ、適格者銓衡行為全体の妥当性を欠かしめるものではあるが、しかしながら、このことから直ちに右銓衡行為全体の効力が法律上無効ということにはならないのであるから、結局この点の原告の主張も亦採用の限りではない。

(ニ)  原告等は、更に、亦、農業委員会の最終的決定の段階における議決方法が公正でない旨主張する。なるほど、農業委員会等に関する法律第二十四条によれば、農業委員会の委員は、自己又は同居の親族等に関する事項については、その議事に参与できないとされているにも拘らず、昭和二十七年六月二十三日開催された同委員会において、磯鍋部落から選出されるべき適格者の決定及び全部落から選出された入植者十四名、増反者四十七名の進達ないし推薦決議につき利害関係ある農業委員自らその手続に参与していること前認定のとおりであるが、同条違反のごとき手続上の瑕疵は、その瑕疵が特に重大でない限り、当該行為自体の効力に関し、取消原因となることはあつても無効原因とならないと解せられるところ、前認定のように、磯鍋部落からの選出手続については、全委員十五名中僅か二名の、全部落からの選出者を進達ないし推薦する決議については、十五名中五名の利害関係ある農業委員の参与があるにすぎず、その上、いずれの決議も全員一致でなされているのであつて、利害関係ある委員の参与がなくとも、所銓委員会の結論には変りのないことが窺えるから、結局、右手続上の瑕疵は、同委員会の決議全体の無効を招来するほど重大な瑕疵とはいえず、従つて、この点の原告等の主張も理由がない。

以上の次第であつて、本件認可処分に至る過程において、必ずしも妥当でない措置ないし手続上の瑕疵のあることは否定できないのであるが、それらはいずれも、本件処分を無効ならしめるほど明白且つ重大な瑕疵とはいえず、結局、本件認可処分は、前認定の手続により有効に成立したものと認められるから、原告等の本訴請求は、いずれも失当であつて遂に棄却を免れないといわなければならない。

よつて、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 浦野憲雄 村上博己 鍋山健)

(別紙目録省略)

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